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この胸部単純X線写真を読めるかな_No.1

  • 2025年11月11日
  • 読了時間: 4分

更新日:2025年11月12日


50歳代の男性。動悸を主訴に来院。心電図モニターを装着して、とりあえずX線写真を撮影した。
50歳代の男性。動悸を主訴に来院。心電図モニターを装着して、とりあえずX線写真を撮影した。

 胸部単純X線写真の異常は一つとは限りません。一つの所見にとらわれてしまうと、他の大切な所見を見逃してしまうかもしれません。また、複数の所見から鑑別診断を選択することもできます。また、正常所見であることも診断の助けとなることがあります。

見逃しをなくすには、①いつも同じ順番で読影する、②見逃しやすい場所は必ずチェックすることか肝心です。

 読影の順番については「小人の心へ」の呪文をYouTubeで紹介してますので、まずはそちらを参照してください。


🧠 3D Approach — Detect・Diagnose・Decideに従って解説します。

  • Detect(読む):まず、見落としのない系統的読影

  • Diagnose(考える):所見の意味を臨床背景と結びつけて考察

  • Decide(動く):次に何をすべきか、実臨床での判断へつなぐ


① Detect(読む)

胸部単純X線で、気管分岐角が通常より開大している。併せて、軽度の心陰影拡大と肺門部の突出を認める。

📍所見まとめ:

  • 気管分岐角の開大

  • 心陰影拡大傾向

  • 心陰影のダブルシャドー

その他のnegative所見としては、

  • CP angleはsharp

  • 下行大動脈や心陰影のシルエットサインは陰性

【追加解説】

  1. 気管分岐角度




気管分岐下において、左右の主気管支と正中線となす角度は、右が約25°、左が約45°と左右差があり、合わせて約70°である。90°以上あると「気管分岐角度の開大」という。














本症例においては、90°以上を示し、気管分岐角度の開大の所見を認める
本症例においては、90°以上を示し、気管分岐角度の開大の所見を認める

2. double shadow


胸部単純X線写真において、心陰影の右縁は右心房と右肺(中葉)とのボーダーラインとして認識されるが、拡大した左心房が右肺と接することによって、正常の心陰影の内側にもう一つボーダーラインが発生する。これをdouble shadowといい、左房拡大を示す所見である。CTで見ると下記のような、位置関係となっている。

(「線を読む」に関しては下記参照)


② Diagnose(考える)

気管分岐部の開大の所見から考えられる主な鑑別は2系統に分かれる。

  • 心疾患系

    • 左房拡大(僧帽弁狭窄・閉鎖不全、心不全)

    • 心嚢液貯留(pericardial effusion)

  • 縦隔・気管分岐下の占拠性病変

    • 分岐下リンパ節腫大(肺癌のN2、リンパ腫、サルコイドーシス)

    • 縦隔腫瘍・気管支嚢胞などのsubcarinal mass


主訴が「動悸」であること、dabule shadowを認め左房拡大が疑われること、心拡大を認めることから心病変、特に僧帽弁疾患を疑います。しかし、腫瘤性病変を否定するわけではありませんが、優先順は低くなります。

③ Decide(動く)

では次に、何をすべきでしょうか?

多くの学生はこう答えます:

「心電図」「心エコー」「心臓カテーテル検査」...

確かにすべて正解ですが、優先順位が大切です。緊急性がなければ、まず行うべきは 「聴診」 です。


X線写真で確定診断がつくのは、自然気胸くらいでしょうか。ほとんどの場合は鑑別診断を列挙するにとどまります。これについては勉強すれはその数は増えますし、もっと勉強すれば逆に絞られることになります。多くの場合は、「次に何をすべきか」までがX線写真の読影の目的になります。


場合によっては、「CTなどを撮っている時間はない。すぐに手術室に行って開胸手術が必要」ということもあり得るのです。しかし、通常は簡単に、患者さんに負担の少ない順番に次の検査を選択します。

参考文献

Murrayらは胸部正面X線122例を検討し、気管分岐角の開大は左房拡大のサインにはなるが、感度61%・特異度63%と決して鋭敏な所見ではないと報告している(AJR 1995)。したがって、この所見を見たときは心疾患だけでなく、分岐下リンパ節腫大や心嚢液など縦隔側の異常もあわせて鑑別に挙げる必要がある。


  • Murray JG et al. AJR Am J Roentgenol. 1995;164:1089–1092.

  • Karabulut N. Br J Radiol. 2005;78:1023–1027.

  • Chen JT. AJR Am J Roentgenol. 1982;139:883–886.

  • Jha RK et al. JBP KIHSS. 2019.

  • “Tracheal Carinal Angle and Left Atrial Size.” Arch Intern Med. 1991;151:307–308.

Dr.Lady's Note

教科書的には気管分岐角の開大は左房拡大や縦隔病変を考えるが、経験的には、両側上葉の無気肺や線維化にともなう肺門挙上でも見かけ上の開大を呈することがある。この引き上げられて見える“偽性開大(pseudo-widening)”と表現することがある。


🧠 Take-home Message

胸部X線の読影は「見る」だけでなく、「考え、動く」ための思考訓練である。

🔍 次回予告

次回からは、見落としやすい3つの領域 ― 肺尖部・心陰影後方・横隔膜下 をテーマに、具体的な症例を通して3D Approachを実践していきます。


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